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【映画】「グレートウォール」長城のド派手演出は大迫力…だけど。

※当然のことながらネタバレを含むので、未視聴の場合には閲覧に注意されたい。
中国の万里の長城が舞台の映画。となれば当然騎馬民族との戦いの歴史映画かと思えばそうではなく、万里の長城を守る守備隊と、長城に襲来する怪物(モンスター)である饕餮(トウテツ)との戦いを描く、わりかしファンタジーな内容だった。
 
グレートウォール(吹替版)
 
長城の守備隊は「禁軍」と呼ばれていて、ん?禁軍って言えば近衛兵だから宮城にいるのでは?と思ったのだけど、この「グレートウォール」の時代設定は宋王朝。長城がまだ勢力圏内ということは、モンゴルに滅ぼされる南宋より前の、北宋時代ということ。なので、この時代の禁軍は近衛兵ではなくて、地方とかから精強な兵を集めてできた皇帝直轄の「国軍」のことを指しているということだね。なるほど。
 
主演のマット・デイモン演じる西洋人(ウィリアム)と仲間(トバール)は、欧州の傭兵という扱い。この時代の傭兵はある意味では兵隊でもあるけど、商売人でもあるというわけで、彼らがなんで中国にいたのかというと黒色火薬を求めてやってきていたというわけだ。
 
当初は軍師のワンや鶴軍のリン隊長は二人を捕縛していたものの、長城に襲いかかってきた饕餮を倒したことでウィリアムらの実力を認め、一緒に長城を守ることになって…というお話。
 

 

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長城のギミックとワイヤーアクション、ヤバすぎん?

 
まず最初の見どころは、長城のギミックと禁軍の戦いぶりだろう。
長城はとにかく変形するし、これでもかってぐらいいろいろな種類の仕掛けと兵器を使って饕餮を撃退しようとする。
遠投投石機(トレビュシェット型らしきもの)は、どちらかというと後に南宋に向けて元軍が使用するやつだけどね…まぁ火を付けて放ってるから、「回回炮」じゃなくて「霹靂車」であって、これは中国で昔からある兵器だ!と言われれば、そうですか、としか言えない。
 
禁軍の中でも女性で構成された「鶴軍」、その隊長「リン・メイ」はこの映画の華といったところか。長城からワイヤーアクションで飛び降りて地上や壁に取り付いた饕餮を長い槍でやっつける。このアクションはすごい!しかし絶対損耗率ヤバいでしょと思ったら、やっぱり何回目かで飛び降りるパターンを読まれて帰ってこない女性兵士の描写がある。なんと無惨な…飛び降りて戦うことにいったい何の意味が…?
 
禁軍兵士たちの整然とした行進とかは見もの。歴史ドラマとか映画はこのあたりが魅力だよね。
盾を使った兵士の防御隊形とかは、金城武が出演した「赤壁の戦い」を描いた三国志映画「レッドクリフ」あたりでも見られた動きで、当時の戦いではこういう動きをしていたのだろうというなにか共通認識みたいなものがあるのかも。
あと天灯(孔明灯)は本来乗るものじゃなく狼煙や信号弾みたいな使い方だっただろうけど、これを熱気球みたいにして飛ぶっていうのはなかなかおもしろい発想だと思った。バカスカ落ちてたけど。
 
こういう「魅せる」系の演出は中国・香港の映画の醍醐味なのかもなぁと思いつつ、派手な爆発シーンはアメリカらしくもあり、この映画の内容にもある洋の東西がいい感じに合わさっているとも言える。
 

ストーリーはもうちょっとなんとかなったでしょっていう

 
残念だったのがストーリー。そもそも、たぶんこの映画は「火薬」を求めに来た傭兵が主人公なのだから、どう考えたって火薬こそがメインテーマ一択だったはず。たしかにラストシーンでは火薬がなければどうにもならなかったと思うけど、親玉を狙い撃ちするって話なら別に火薬じゃなくてもいいはずだし。途中で出てきた「磁石で饕餮の行動が鈍る」の描写がせっかくあったのに。
 
火薬が歴史上で大事な役割を果たしたのは、従来の武器と比較して、轟音と着弾の衝撃によってこれまでとは比較にならない「面的制圧」ができるようになったってところだと思う。このあたりの描写は、まいどおなじみジブリの「もののけ姫」で描かれている。あれも時代的には鎌倉~室町あたりだから、この時期と近いっちゃ近い。
 
同作では「石火矢」であれだけのことができたのだから、饕餮も当然火薬で吹き飛ばして撃破するんかと思ったらほとんどしない。砲がないからできないって話なら、もののけ姫でもやっていたように地雷状に加工して敷き詰めるだけで圧倒的に有利だろうに、それもしない。
 
むしろ途中から、火薬?なんでしたっけそれ、あぁ儲かるやつですよねウフフみたいな空気すら漂いはじめて、最後の最後にようやく火薬付きの武器(火薬付きの矢+火矢)で倒します、みたいな流れ。つまりこの火薬は「隠し刀」であって、戦況を変える「ゲームチェンジャー」にはならなかった。
 
劇中盤からは、磁石っていう新たな要素が加わって、磁石で饕餮の動きが封じられるんでは説のほうが注目されたりしてたけど、実はそれあんま役に立たなかったっていう。でも中国の軍事にかかわる人って基本賢いイメージがあるので、この当時現場の軍師が「磁石で動きが封じられる」ってことがわかったら、磁石を総動員で集めて饕餮まとめて無力化したあと爆殺するぐらいのことはしそう。中央に報告する前に。
 
トバールとバラードの裏切りあたりはわりと想定内。まぁこのあたりはお約束というか、裏切り者がヤバい末路を迎えるのはテンプレだよねっていう。
 

「饕餮」の描写がもう少し丁寧だったら

 
これに尽きる。「饕餮」が、「なんだかよくわからないもの」のままで終わってしまっていて、とにかく大量に押し寄せて人を殺して去っていくっていう暴風雨みたいな話になってしまっているので、饕餮がどれほど恐ろしいものなのか、それに対して火薬がどうアプローチしてゲームチェンジャーになりうるのか、磁石がどういう仕組みで、どの程度饕餮の動きを鈍らせるかみたいなところまで頭が回らない。
 
饕餮の行動原理とか弱点、火薬を使う利点みたいなところがもう少し解明されている設定で、そこが詳しく語られたら、「おぉ、それは火薬が役に立つやん」とか、「そら磁石でなんとかなるやん」の話にできて、ストーリーにも納得感が出てきたんだけど、この映画の饕餮はまるでロボットなので、「恐ろしい怪物」というよりは「ただ単に迷惑な動物」ぐらいの扱いになっていて、あまり恐怖感がない。
 
とはいえ、このあたりは長城を境にして陸続きで北方の遊牧民と接して生活してきた中国の風土が関わっているのかもしれない(適当)。彼らにとっては、ときどき思い立ったように集団で押し寄せてきて焼け野原にして、また北方に帰っていく遊牧民って、まさに饕餮のイメージそのものなのかも。
 
あと、「集団で押し寄せてきて何もかも奪い去っていく」ものの中で中国に馴染み深いものといえば、「飛蝗(蝗害:イナゴだと思われてたけどトノサマバッタの変異体)」がある。中国は歴史上何度も飛蝗の被害に遭っていて、饕餮にはその恐怖心を投影しているのかもとか思ったけど考えすぎか?中国の人って集団で押し寄せるものに本能的な恐怖心とかあるんだろか。
 
日本人の「田舎に闇を感じる」とか、「山/海に怖いものが住んでいる」みたいな感覚と近いのかもしれない。
 

でも見ておいて損はない

 
とは言ったものの、冒頭で言ったようなアクション要素は本当に見応えがある。爽快感も良い。
 
あとこの映画をして「ホワイトウォッシングだ」と指摘している人は明らかに内容見ていないと思う。
そういう差別的な要素は見当たらなかった。
 
総合的に「見ておいて損はない」映画だと思う。
…が、マット・デイモンが出るには勿体なかったかな~…。