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【映画】「ブラックホーク・ダウン」 誰もが理由あって戦っている…けれど。

※当然のことながらネタバレを含むので、未視聴の場合には閲覧に注意されたい。
これも確か初見は高校生ぐらいのときだった気がする。
 
「We got a Black Hawk down,We got a Black Hawk down,super 61 is down」の通信シーンはよく記憶に残ってる。

 

ブラックホーク・ダウン (字幕版)

ブラックホーク・ダウン (字幕版)

  • ジョシュ・ハートネット
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ストーリーとしては、実際に1993年にソマリアで起こった「モガディシュの戦闘」をモチーフとして製作されている。
 
米国が民族紛争であるソマリア内戦に介入し、和平に反対する要人「アイディード将軍」、ほか幹部を確保するため、レンジャー、デルタで構成された特殊部隊で首都モガディシュを急襲。
 
当時、地上の敵、それもソマリア民兵レベルにはほとんど無敵と思われていたヘリコプター、「UH-60ブラックホーク」と、「MH-6リトルバード」でヘリボーンを実施し、確保した要人とともに装甲車両(ハンヴィー)で脱出しようとする。
 
…のだが、まぁ首都のど真ん中に突入してきた敵軍を逃す手はないよねってことで、ソマリア民兵側も徹底的なゲリラ戦と妨害を展開。
 
さらに、地上から発射された「RPG-7(対戦車ミサイル)」によって、空中にいたUH-60「スーパー61」、「スーパー64」が撃墜。冒頭の通信はここで聞ける。
 
 
「ヘリが落とされる」ことが、いかに当時の現場の兵士にとって重要な意味を持つかということと、想定外であったかが象徴的にわかるシーン。
 
また地上部隊のハンヴィーも、バリケードで脱出路を塞がれ、民兵からの集中攻撃を受けたために次々と死傷者が出てしまう。
 
当初「30分で終わる」はずだった作戦が、凄絶な「泥沼の市街戦」へと変貌していく…というもの。
 
劇の冒頭に登場する「死者だけが戦争の終わりを見た」という言葉は、哲学者プラトンのセリフの引用(とも言われるが、実際にはマッカーサーの演説とも)だけど、劇中でこの先に兵士たちの悲惨な未来が待っていることを予告するとともに、世界中で戦争が続いていることに対してのセリフだったのかもしれない。
 
 

米軍が「ゲリラに損害を出す」タイプの映画は多い

 
歴史を見てみると、米軍ってけっこうゲリラに痛い目に合わされるタイプの戦場を経験しているように思う。まぁ代表的なのは「プラトーン」とか「ワンス・アンド・フォーエバー」とかのベトナム戦争あたりでその情景が見られる。
 
もう少し遡ると、太平洋戦争で有利な状況にもかかわらず日本軍相手にそこそこ損害を出してしまった沖縄戦、硫黄島、ペリリューあたりもそうかな。
 
さらに遡ってみると、アメリカのインディアン戦争中(1876年)、リトルビッグホーンの戦いにおいて、無謀な騎兵突撃で全滅レベルの損害を出し、自身も命を落としたジョージ・アームストロング・カスターなんかもそれに近いか。
 
本作、「ブラックホーク・ダウン」でも、兵を載せたヘリが首都に接近する際に、首都の外で携帯電話を持っている現地住民が描かれるのだけど、要するに彼らは監視役であり、迎え撃つソマリア民兵側は米軍の「急襲」を事前に察知することができたというわけだ。
 
この描写は、先のリトルビッグホーンの戦いで、インディアン側が先にカスター隊の接近を斥候の報告によって察知していたエピソードと既視感があるね。
 
さらに言うと、太平洋戦争中、日本軍がひどい目にあった「ガダルカナルの戦い」においても、ブーゲンビル島の2人の監視員(コーストウォッチャーズ)が、日本軍艦・航空機の接近をアメリカ海軍に通報していたというエピソードのほうが、私は先に浮かんだ。
 

 

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それぞれに描かれる「戦う理由」

 
まぁこの手の映画の特徴として、「敵対した相手を残忍・冷酷な強者」として描くのは通例。
太平洋戦争を描いた「ザ・パシフィック」のシリーズでもわりとそういう感じだったしね。
 
「ワンス・アンド・フォーエバー」では、ベトナム軍兵士の家族の存在を匂わせる描写が出てきたけど、肝心の兵士やその家族の「その後」にはスポットが当たらなかったりして、まぁやっぱり主役は米軍だしね、となる。
 
さて、「ブラックホーク・ダウン」ではどうだったかというと、まぁやっぱり「ゲリラはゲリラ」であって、個性はほとんど描かれない。
 
ただ、少年ゲリラが父親を誤射してしまうシーンとか、捕虜になったヘリパイロット「マイク・デュラント」と、アイディード派の民兵(モアリム)の会話には、「うむむ…」となる場面もある。
 
民兵には民兵の理念と理由があって、アメリカ軍に対抗している。まぁアメリカがなんで民族紛争の仲介をするのかっていうのは、国際社会の中での立場があってという理屈があるのだけど、現地住民からすれば、「あんた関係ないでしょ」と言いたくなる気持ちも当然だ。
 
米軍レンジャー隊員の中には、味方の救助のための再出撃に抵抗感を示すものもいたし、戦場で味方の遺体から腕時計を腕ごと拾うっていうまぁまぁエグいシーンもあったりする。
 
このあたりも戦う理由ということなんだろうけど。生活のために軍人になったものもいるだろうし。
 
特徴的なのは、やっぱり本作一のイケメン、デルタフォースの「ノーマン "フート" ギブソン」。顔色ひとつ変えず、ほとんど無傷で戦い抜き、地獄のような戦場から生還した直後に、再度の出撃準備をしているその様子はまるでターミネーター
 
『なんで戦場に行くのかと良く聞かれる。戦争が好きなのか?と。だが奴らには絶対わかりはしない』。無敵超人みたいなフートだけれど、まあもちろん戦争が好きな訳はない。彼がその研ぎ澄ました技能を振るうのは、あくまで「仲間のため」。なぜようやく安全な場所に帰り着いたのに再度の出撃をするのかというのは、仲間の遺体を取り戻すためだったというわけだ。
 
この「ブラックホーク・ダウン」は、戦場のリアルな描き方も特徴だし、ノンフィクションをもとにしているというのも見どころなんだけど、実はドキュメンタリーっぽくもある。
 
それぞれの戦う理由が描かれていて、一見「みんな同じ格好で同じことをしている」ように見える兵士・民兵たちに、それぞれの背景や行動原理があることも残酷に描いているというわけ。なぜ残酷なのかといえば、戦争はそういう彼らの人生や背景を、一発の銃弾が貫いてゼロにしてしまうからだ。
 

戦争アクションとして見るか、歴史として見るか

 
戦争アクションとしてブラックホーク・ダウンを見た場合、まぁ序盤のヘリボーンのかっこよさ、銃撃戦の派手さ、ソマリア民兵に苦戦して追い詰められる米軍、そこから最後にリトルバードによる機銃掃射で敵を一掃…と、見どころはたくさんある。
 
急遽現場に戦闘員として入ることとなったジョン・グライムズの立ち回りも見もの。ただしこの人物、戦後になって不名誉な罪を犯し、懲役30年の刑に服することになってしまった。軍がこの不祥事(?)を隠蔽しようと圧力をかけたため、彼のモデルとなった兵士の本当の名前はグライムズではない。
 
ヘリの墜落現場にたった二人で救助するためにヘリから降下した、デルタフォースの「ランディ・シュガート」と「ゲイリー・ゴードン」の絶望的な戦いも記憶に残る。この二人のエピソードは史実で、シュガートとゴードンのどちらが先に戦死したのかというひと悶着はあったようだが、ヘリから個人携行のわずかな武器弾薬だけで墜落地点に降下して、現場を守ろうとした行動は、死後になって名誉勲章が与えられている。
 
終始緊張感が漂う中、機関銃手の「ショーン・ネルソン特技下士官」・「ランス・トゥオンブリー特技下士官」のデコボコな掛け合いはちょっと和ませてくれる。ネルソン可愛すぎる。
 
あと車両部隊指揮官の「ダニー・マクナイト中佐」はなんというか地味だけど頼りになるおっさん。こういう人が戦場では必要なんだろうな。作戦会議の際に不平混じりの懸念を口にしていたのはマクナイト中佐だった。
 
文句ばかり言っていたけど仕事はきっちりこなして車両を脱出させ、基地から人員を再度現場に送り届けたジェフ・ストルッカー二等軍曹も好印象。
 
まぁ誰しも戦争映画にハマる時期があって、その時期のたぶん初期も初期には、派手な爆発や銃撃シーンがかっこいいから、敵をやっつける様子に胸がすっとするからという理由を持つ人もいるだろう。別にそれはそれでいいと思う。映画の楽しみ方はそれぞれだしね。
 
だけど、戦争は歴史そのものでもある。なぜ戦争になったのか、戦争中、両者は何を考えていたのか。国や政府ではなく、向かい合った兵士同士は何を考えていたのか、と掘り下げていくと、彼らが銃を向け合わなければならなかった状況は、あまりにも不自然なんだよな。だって、その両者が憎み合っていたわけじゃないんだもの。
 
と、大人になってから再視聴した私は思ったりしたのだった。
 

小ネタをちょっと

作中の用語とか設定みたいなこと。
 

【デルタフォースとレンジャーってなんなん?何が違うん?】

→レンジャーは、アメリカ陸軍の中での、軍隊の役割のひとつだと思えばいい。ただ、単純な役割という意味よりも、通常課程よりも厳しい訓練を経て通常作戦と特殊作戦(遊撃戦:ゲリラ)、パラシュート降下などとにかくいろんなことができるようになった緊急即応部隊。つまりレンジャーとはアメリカ陸軍の中での実戦派エリート、だと思えばざっくり正しい。一般の兵隊から見るとレンジャーはバケモノレベルに強い。作中で誰が「レンジャー」なのかというと、雰囲気でわかりそうだけどエヴァーズマンとかグライムズとかそのへん。大部分はレンジャー。エヴァーズマンとかスティールの指揮下で戦ってる兵士全員、ただの一般兵士じゃなくてレンジャーなので、あの場にいる全員が最精鋭の兵士。
 
→デルタフォースというのは、アメリカ陸軍の特殊部隊。この人たちも特殊作戦が得意な人たちなのだけど、彼らの得意技は対テロ戦争で、近接戦闘(いわゆるCQBとかCQCとか言われるやつで、建物内とか敵との距離が近い局面での戦いが得意な軍人さんってこと)と市街戦が特に得意技。劇中でもそれらしきことをやってる(夜のシーン)。あとはデルタはめちゃくちゃ頭が良くないとなれないという。というのも、外国に潜入する際に現地語を使うことが要求されるため。一般兵士と演習をするときは、デルタでは英語以外の言葉で作戦会議をするのだとか。この人たちも一般兵士から見るとバケモノレベル。
 
レンジャーとデルタ、どちらが強いの?という疑問はつきものだと思うけど、正直難しい。劇中の描かれ方だとレンジャーが次々やられていく中、デルタはほとんど損害を出してない(シュガートとゴードンだけ)。こう見るとレンジャーが一般兵士みたく見えちゃうんだよな。でも、デルタはそもそもが建物内とか入り組んだ市街地を想定して訓練している部隊だから、まぁ「デルタがレンジャーより強い」というよりも、「デルタ向きの戦場だった」ってことじゃないかと。
 
ちなみに作中ではデルタとレンジャーが仲が悪い…というか、デルタがどことなくレンジャーを下に見ているかのような描写があるが、史実ではそんなことはないらしい。というのも、レンジャー出身のデルタってのもいたようだ。まぁ同じ現場に向かうけど所属部署が違うっていうのはちょっと気まずかったりするから嘘とまでは言えないか。実際良い印象を持ってない隊員同士もいただろうし。でも命をあずけ合う間柄になれば、そんなことは言ってられないってことだろう。エヴァーズマンやグライムズとデルタとの関係性ぐらいが史実に近いんじゃないだろうか。

【最初の基地のシーンで兵士が「フワ」とか「フア」って言ってるのなに?】

→アメリカ陸軍、レンジャーで使われるスラング。英語で書くと「Hoo-yah」か「Hoo-ah」となるとのこと。意味は別になくて、日本語で言うところの「ウェーイ」みたいな感じだけど、もうちっと万能かな。「OK?」とか「わかった?」「いいな?」って意味に近いんだけど、単なる掛け声だから「異論は認めねぇ」ってこと。この掛け声は戦前からアメリカ陸軍で使われていて、リアリティを出すために描写したのだそう。

【ヘリのシーンで、「リモ」って言ってるのなに?】

→「Limo(リモ)」で、「リムジン(Limousine)」の略。

【KIAって?】

→軍事用語。「Killed In Action」。戦死とか死亡、即死って意味。ちなみにこのコールで戦死が報告された「ピラ」というのは、基地のシーンで上官のモノマネをして怒られてた兵士。
いじられてた本人(マイク・スティール レンジャー地上部隊指揮官)が悲しそうな顔をしていたのはそのため。

【てか敵の街中に突入すんのにハンヴィーとかwww戦車使えよ戦車www】

→兵士の安全を考えると、戦術的にはまぁそうともいえるけど、政治的には他国の街中にアメリカの戦車が突入して戦闘するっていうのはまぁまぁヤバいことで(この作戦、国連軍としての活動じゃないし)、国際的な反発とか、周辺国との関係悪化の懸念もあったからやむを得ずハンヴィーを選定した。
 
あと、この作戦は街をぶっ壊すことじゃなく、あくまで要人を拉致って連れ帰ることが目的なので、戦車よりは装甲兵員輸送車とかが向いてたかもね。狭いし。実際救出部隊として国連軍がパキスタンスタジアムから出たときはそうだった。でもどっちみち、終盤のシーンは地上で歩兵と車両が連携してガッチリガードしながら撤退したからうまく撤収できたわけで、初手から装甲兵員輸送車で突入→離脱って戦術の場合、歩兵の支援が期待できないので至近距離でRPGぶっ放されたらそれなりの損害が出ていたかもしれない。余談ではあるが、想定外の莫大な損害を出したモガディシュの戦闘だけど、作戦目的である要人拉致には成功してるので、作戦自体は失敗ではない。
 
ちなみにこのブラックホーク・ダウンのモデルになった「モガディシュの戦闘」をきっかけに米軍はのちにソマリアから撤退して、それ以降地上作戦の派遣を渋り、ミサイルとか航空機に全振りするようになった。

【RPGってヘリに当たるの?】

→普通当たりません。誘導兵器(目標を追尾する兵器)じゃないので。
 
ただ第二次世界大戦時に、「パンツァーファウスト」っていうこれまた無誘導の対戦車ロケットランチャーをまとめて空にぶっ放せば航空機落とせるんじゃね?っていう脳筋兵器が生まれたことはあった。(→フリーガーファウスト)ちなみに、そんなもん当たるわけねぇだろって思うかもしれないが、第2世代のフリーガーファウスト(ルフトファウストB型)は最大射程2,000メートルもあり、しかも弾幕が広がってめちゃくちゃ当たったらしい。数は力、である。
 
→劇中では発射されたRPGも2~3発で、さも狙い撃ちして当たりましたみたいな雰囲気になってるんだけど、実際には多数の民兵が上空のヘリをめがけてとんでもない数のRPGをぶっ放していて、その中の1発が不運にもヒットしたということだとか。建物という建物、地上という地上からRPGが飛んでくるところに降下するわけだから、そらデュラントのあのビビリも納得ですわ。

【リトルバードめっちゃ強くね?】

→めちゃくちゃ強いんだよなこれが。あの小ぶりな体躯と「リトルバード」って名前からは想像できんでしょ。ちなみに、リトルバードを武装攻撃型にした「AH-6」の愛称は「キラーエッグ」っていうんだけど、小鳥さんから急に禍々しくなるじゃん??街中で小回りをきかせる必要がある場面ではブラックホークより向いてたかもね。でも兵員輸送・航空支援という意味ではやっぱりブラックホークに軍配が上がるんだろうな。ちなみに建物内への突入とかの用途でFBIも運用してる。
 

【民兵いすぎじゃね?】

→実は民兵の数も多いことは多かったんだけど、劇中で女性や子どもも民兵と一緒に歩いているシーンがある。これは史実で、民兵が市民を「人間の盾」として使ったため。なお戦闘序盤は米軍も遠慮してたけど、後半は容赦なく射撃したため市民を盾にする戦術は使われなくなったようだ。
 

【なんで最後のシーンで米軍が現地住民から歓迎されてんの?】

→撤収が成功して、グリーンライン(停戦ライン)を越えて親米地域に入ったから。ちなみにこのシーン、唐突にスローモーションがかかったりするので、あまりにも厳しい戦闘を経験した米兵の妄想じゃね?って疑惑が寄せられたりしたそうだが、史実らしい。

結論

歴史映画としても、戦争映画としても見るべき。
ただしそれなりに覚悟して見た方がいい。
個人的には字幕で見るべきです。