やまねこのたからばこ

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【漫画】「水乞い」(第一巻)少しずつ壊れていく日常と、チリチリと灼けるような焦燥感。

※当然のことながらネタバレを含むので、未読の場合には閲覧に注意されたい。

 
貧困、というほどでもないけど裕福とは言えない
イジメというほどでもないけど周囲とうまく馴染めてはいない
不良というほどでもないけど決して真面目というほどでもない
そんな少年が主人公の大木だ。
 
 
もともとそんなフラストレーションが溜まりやすい環境にいた大木に、やや不良よりの先輩、「横田」との接点が訪れる。
 
横田の友人グループは、横田に負けず劣らずなかなかの下衆たちで、最初は大木も腰が引けていたものの、少しずつグループから認められ、大木がそこに「居場所」めいたものを感じ始める。
クラスメイトからの小さな嫌がらせに対して、横田が大木の側で参戦してきたことを皮切りに、大木は学校での居場所を無くしていき、それとは反対に、横田らのグループの側での存在感を高めていく。
 
 
やがて、グループをまとめていた本物の外道、「春ちゃん」なる異様な容貌の巨漢が「飼って」いた少女が、薬物の影響で自宅で死亡してしまった。
その遺体を運び出す作業を手伝っていた大木は、その現場をなにかと世話になっていた「おっちゃん」に目撃されてしまう。
 
なんとか切り抜けようとする大木だったが、「春ちゃん」は、なんの躊躇もなく「おっちゃん」を暴行。
川に「おっちゃん」の身体が浮かぶシーン(状況的に死亡と思われる)で第一巻が終わる。
 
…というストーリーなのだが

 

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率直に言ってこの漫画はとにかく暗く、ジメジメしていて、自分たちが通常備えるべき常識や倫理観といったものがいかに頼りなく、なんの保証もないものであるかが突きつけられる。
 
そして、もともとの性格であるのか、大木の「流されやすさ」が、まるで滑り台から滑り落ちてしまうかのように事態が次々と悪化していく、ぞわぞわとした退廃的な感覚が湧き上がってくる。
 
ダークな、というよりは、チリチリと灼けるような焦燥感と深く水底に沈んでいくような絶望感。
 
この第一巻だけでも、「誰かが、どこかでストップをかければ、ここまで状況は悪化しなかったのに」という、自分のことでもないのに後悔が浮かんでくる展開は迫力がある。
 
ちょっと周囲を「ビビらせる」、「嫌がらせを止める」ぐらいの示威行為ができれば、おそらく大木はここまで外道には落ちずに済んでいただろうと思う。それが、所属する集団を間違えたばかりに、恐ろしい犯罪に手を貸すことになり、さらには自分の関係者までも(直接的ではないにしろ)害する結果となってしまった。
 
ともかくもこの第一巻の展開によって、大木は「父親がいない家庭だけれど、母親とはそれなりに助け合いながら、なんとかそれなりの幸福をつかんで生きる」というルートはなくなってしまった。
 
ここから第二巻以降、どのような茨の道が彼らを待っているのか、怖くもあり、楽しみでもある。そんな第一巻だった。