やまねこのたからばこ

やまねこが見たもの聞いたもの ※ページ内に広告が含まれます※

MENU

【漫画】「迷宮ブラックカンパニー」(1巻) こういう異世界転生が読みたかったんだよ。

※当然のことながらネタバレを含むので、未視聴の場合には閲覧に注意されたい。

この絵柄、もしかするとギャグ系では…?と思い、手にとった。結果は期待通り。そしてストーリーもなかなか良い。

 
 
ストーリーとしては、コツコツと投資で資金をつくり、ようやく都内に3つのマンションを建てて、念願の「セレブプロニート」になった「二ノ宮キンジ」が主人公。念願かなったその瞬間、なぜか異世界に転生してしまった。
 
しかし、最近の異世界転生モノによくある、「転生したらなぜか自分だけ超ハイスペックだった」とか、「他のレベルが低すぎて無双した」的な最強主人公展開ではかった。
 
ニノミヤが異世界に転生した結果居着いた場所は、かつてダンジョンと呼ばれた「魔石採掘鉱山」。ここで一日16時間稼働でツルハシを振り、上司のゴブリンからは「俺が若い頃は…」と説教され、風呂は月1回、狭い部屋にすし詰めの雑魚寝という社員寮だった。
 
 
しかし、そこは現実世界でも「セレブプロニート」を志したニノミヤ、ここでも単純労働で慎ましく生きるなんてことは考えない。
ある日、上司に「出張」を申し出て、ダンジョンの深奥での採掘作業にあたることになる。ダンジョンの中は強い魔物がいるが、魔除けの聖水を準備し、単純労働を繰り返す中で、こっそりと魔石が大量に眠っている「かもしれない」抜け道をしっかり見つけていた。
 
ニノミヤは卓越した武力や魔力、血筋などではなく、経済と投資によって、この異世界での成功を目指すという内容だ。
 

 

スポンサーリンク(広告)

 

 

リスクを取れない人間に成功はないということ

 
さて、感想だけど、結局コレ(見出し)だと思う。
ネタバレになるので詳細は控えるのだけど、ニノミヤは成功者になるためにいくつかの施策を展開する。それがいっときはうまくいって、鉱山労働者から徹底的に搾取して大きく本社に貢献できそう=自分の成果にもなりそう、というところで、肝心の仕掛けが壊れてしまい、労働者から恨まれて失敗する。
 
しかしその後、炭鉱で女王蟻にこき使われていたアリの労働者集団を言葉巧みに焚き付け、自分が指導者として働きアリのコロニーをまるごと手に入れる(革命)ことに成功するところで1巻が終わる。
 
この作品で共通しているのは、ニノミヤは「けっこう失敗する」ということ。そもそもニノミヤがそんな鉱山で働かなければならなくなったのは、この異世界で大量の借金をしたためで、金額は2千万G(ゴールド)。その借金の理由は、この世界で最初にスマホを「魔法の板」として販売しようとして、詐欺で訴えられたためだ。
 
しかし、そうして多くの借金を背負って鉱山で働くことになったために、「労働者階級」の持つ意味を認識する。
世界が変わっても、「労働を提供して見返りに賃金を得る」という労働者階級と、「労働者に金を払って得たものでさらなる収益を得る」という支配者階級がいる。ニノミヤは、最初から賃金でちまちまと日銭を稼ぐような生き方は向いていなかったということだろう。異世界転生初期から、大きな収益を得るための商売を考えていたということだ。
 

経済と労働がギャグを交えて理解しやすく可視化される

 
労働者として賃金労働を得ている「だけ」では、生涯その階級の差を超えることはかなわない。
なぜなら、それはリスクを取らない安全圏にとどまっているから。
リスクをとって挑戦した結果、手痛い失敗の経験を受けることもあるが、そういう鉄火場でもなければ、大きな利益を得ることはかなわないということだ。その理屈は、いろいろな情報に触れられる現代人にとっては、理解できる部分もあるだろう。
 
そもそもニノミヤが冒頭のシーンで、マンションの最上階から地上を見下ろし、通勤・通学する人々を嘲笑していた。
最初から、「がんばって労働者階級の中にとどまろうとする人々」とは発想が異なるわけである。
別にそれが正解だとは思わないし、もちろん倫理的には、一生懸命働いている人を嘲笑することは褒められたもんではない。
 
しかし、たとえば雇い主がいる労働者は、そうそう食い扶持を失うことはない。(リストラとかはあるけど)
「飼い殺し」は、成果が出せない人間にとっては「飼われている」という立場を守ってくれる優しさであるという側面もあるわけだ。
一方、ニノミヤのように、(多少反倫理的であったとしても)「自分に莫大な不利益があるかもしれないが、成功すれば大きな利益が見込める」という、たとえば現代風に言えば「起業」や「投資」に本気で挑戦することができる人間が存在しなければ、世の中は成り立たない。
こうした立場を目指すニノミヤが、世界や労働者をどのように見ているのか、カネとヒトとの流れがどのように見えているのかという意味で、この漫画は非常に貴重な視点をくれる。
 
ニノミヤの失敗がギャグテイストで描かれることで、投資や経済や労働という、ある意味「お硬い」テーマが読みやすく、理解しやすくなっている。
 
ニノミヤが、失敗を経て今後どのような生き方・稼ぎ方を目指していくのか、そしてそれにまたどのような障害が訪れるのか、期待が持てる1巻だった。