※当然のことながらネタバレを含むので、未視聴の場合は閲覧に注意されたい。
園子温監督のホラー作品。ホラーといってもオカルトではなく人怖系・サイコ系ホラー。
映倫規定「R18+」指定。見てみるとまぁなるほどなという内容。つまりけっこうエグい描写があるということだ。
ざっくりとしたあらすじとしては…
小さな熱帯魚店店主「社本信行(演:吹越満)」が主人公。社本は妻の死亡後すぐに再婚して「社本妙子(演:神楽坂恵)」と再婚したのだが、娘の「社本美津子(演:梶原ひかり)」はすぐに再婚したことをよく思っていない。
こうした家族間の問題に信行は正面から向き合うことができない、いわゆる「事なかれ主義」のタイプで、家族だけではなく周囲とも波風立てないように生きている。
そんな折、信行への反発からか美律子はスーパーでの万引きをしてしまう。信行は窮地に陥ったのだったが、信行を救ってくれたのは万引きされたスーパーの店主と懇意にしている「村田幸雄(演:でんでん)」だった。
村田はスーパーの店長(ますだ 演:芦川誠)と話をつけたうえ、美津子を自身の店にアルバイトとして雇い入れることになる。
人の良さそうな村田の態度に心を許し、信行と妻の妙子は村田夫婦との交流が始まるのだが、村田には裏の顔があり、顧問弁護士の「筒井(渡辺哲)」も加わり非道な道への片道切符を手にすることになる。
そして村田の恐ろしさは、対立した相手、邪魔になった相手の「ボディを透明にする」という言葉にあったのだった…という流れ。
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悪人は必ず味方の顔をしてやってくる
実はこの映画には元となった実際の事件がある。それが1993年に発生した「埼玉愛犬家連続殺人事件」だ。
扱う商材こそ熱帯魚ではなく犬だったが、犯行の手口や遺体の処理方法などはおおむねこの実在の事件に従っている。
…で。
まぁ実在の事件をもとにしてると言っても、やはり映画で見れば村田に対して「こんなやつ怪しすぎるだろ、(賢い)自分なら疑うね。」なんて思ってる人も多いだろう。
なのだが、本当の悪人というのは「弱みにつけ込む」ことが実にうまく、またやり方も悪どい。
そして難癖の付け方もとびきりうまい。いわゆる「反社」なんて呼ばれるような、かつてのヤクザみたいな勢力が常に一定の隠然たる勢力を持ち続けているのは、社会の暗部に落ちてしまう人間がいるだけでは説明がつかない。彼らはつねに「表」側にいる人間に味方の顔をしてつけ入り、ほんの些細なことにイチャモンをつけ、そこからずぶずぶと抜け出せない関係を作る。
「何らかの犯罪の片棒を担がせる」というのは、その典型的な手法のひとつだ。
この「冷たい熱帯魚」で村田が使ったのもそういう手段だ。気が弱く流されやすそうな信行に目をつけ、家庭内の不和という、人によっては世間に出すのが恥ずかしいと感じるような不始末を笑って許し、「いい人」のポジションを得て近づき、そして自分の行っている悪事の片棒を担がせる。あとは適度な恫喝と報酬、つまりアメとムチでどうとでも籠絡できるというわけだ。
「闇バイト・裏バイト」を一度でもやると抜け出せなくなるのは、こういう理由もある。
この映画が「ホラー映画」というジャンルになっているのは、凄惨な犯行シーンからだろうが、実は私自身は、この村田のような「人の心に付け入る」という手法の巧みさ、その恐ろしさこそがホラーだと感じた。
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人間の身体の処理ってけっこう大変
見どころのもう一つは「ボディを透明にする」と村田が説明した、遺体の処分方法についてだ。
正直この方法については極めて原始的…というよりもシンプルで、誰もが(その必要があれば)思いつくかもしれない。しかし、思いつくことと実行できることとは全く別物だ。
しかし村田はやってのけた。というよりも常習的にやっている。妻の「愛子(演:黒沢あすか)」もまた、村田の犯行の手助けをすることに慣れているが、ときおり見せる気性の激しさや激昂する様子を見ていると、愛子もまた並々ならぬ人生を歩んできたのだろうと思わされる。
実際、人間の身体というのは処分がものすごく大変であるらしい。人体の60%は水分だというのだが、実際に人が亡くなるとすぐに腐敗が始まる。そして外に通じる穴から腐敗した内容物が漏れ出してきて、とんでもない異臭を放つし、その空間にわずかでも隙間があれば蝿やゴキブリなどの昆虫が卵を産み付けたり食べに来る。
たいてい、一人暮らしだった人が亡くなって誰にも発見されず、周辺の建物からの「異臭」騒動で孤独死した遺体が発見されるケースなどは、この段階で発見されるのだそう。
ちなみに、以前特殊清掃の仕事について語っているブログやメディアを見たことがあるのだが、人間のいわゆる「腐液」というのは恐ろしいもので、ゴミ袋や薄いビニールシートなんかは簡単に貫通するのだそうだ。それどころか、材質によってはプラスチックのケースなんかでも貫通するらしい。要は染み出してくるのだそう。
つまり、「生モノなんだからいずれなくなるでしょ」という論は明らかな間違いだということだ。
じゃあ、どこかに埋めてしまうか?というと、たとえば山中などに投棄する場合、埋没させる深さは「2m以上」でなければならないらしい。そうでなければ容易に発見されてしまうそうだ。というのは、「野犬が掘り起こすから」。なんだ、2mなんて簡単じゃんと思うかもしれないのだが、自分の身長以上の深さの穴を掘れと言われたら、体力に自信のある人でも丸一日掘り続けてどうにか到達できるかどうかというレベルだ。
海はどうか?というと、これも簡単ではない。なにしろ海は海流があって岸辺に戻ってくる可能性があるし、魚に食べられてしまえば別だが時間が経つとガスが溜まって浮かんでくる。おまけに海には、海中を漂ってるものを根こそぎ網で拾ってくる「漁師」という職業があったりするので発覚の危険性も高い。
結局のところ、とかく人間の身体というのは処分が難しいわけなのだが、この「冷たい熱帯魚」では極めてシンプルに「火葬」の手順によって臭いの発生を防ぎ、骨を砕いて川に散布するという方法によって「透明」にしてしまった。
頭で考えれば「そうすれば確かに見つからないだろう」とは思うのだろうけど、それを実際にやろうとする人がいるか?というと、まぁやらないよねって意味で、この犯人はクレイジー。そのクレイジーさと、それを手伝う人物の狂気、そこに巻き込まれる主人公というリアルな恐ろしさを味わえる映画だ。
結論
ぎくしゃくしながらも守ってきた小さな日常が徐々に切り崩されて破壊されていく様子は見もの。焦燥感と絶望と恐怖を与えてくれる良映画だった。見るべし。
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