やまねこのたからばこ

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【映画】「イン・ジ・アース/In the Earth」 考えるな、感じろ、地球を。

当然のことながらネタバレを含むので、未視聴の場合は閲覧に注意されたい。

 

In the Earth [DVD]

 

…という注意表記が必要かどうか悩むレベルの内容の映画だ。
内容的には自然主義みたいなところがあるので、アメリカのヒッピー文化とか、そこから派生したサイケデリックな世界観、あるいは「ニューエイジ」という要素を理解しておくと入って来やすいかもしれない。

 

 

森の中になにかいる…?わけではない?

[出典]:https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/sp-p7uuT0tw

 

基本的にこの映画、オカルトホラーと定義づけることはまぁできないだろうなといいたいんだけどそうもいかない。基本的に人間に害を為してくるのは人間。なのだけど、森の中で起こる不可思議な現象には確かにオカルト要素はある。

ざっくりしたストーリーは…

科学者の「マーティン(演:ジョエル・フライ)」と案内人「アルマ(演:エローラ・トーチア)」が主人公。

背景として、この映画の世界では人類に重篤な症状をもたらす新型感染症が蔓延している。人類は生き延びるための方法を探していて、マーティンはそうした研究の一環で、ブリストル郊外にある森に囲まれた研究施設に行くことになる。

実はこの研究施設には、先にマーティンの元恋人で、食糧生産の研究を行っているオリヴィア博士(演:ヘイリー・スクワイアーズ)がいるはずだった。しかし、ある日を境にオリヴィア博士は一切の連絡を断ってしまったという。

そんな中、マーティンとアルマは森の中へ足を踏み入れていくのだが、何者かによるキャンプへの襲撃、装備の強奪、負傷と様々な苦難がマーティンとアルマを襲う…というもの。

 

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何に恐怖するべきか?

 

序盤から中盤にかけては、マーティンとアルマを「何らかの目的」のために襲撃してくる人物「ザック(リース・シェアスミス)」への恐怖が、登場人物と視聴者から見た視点になる。キャンプを襲撃してきたのはこのザックだった。

ところが、ザックはただの欲望や欲求のために二人を襲っているのではなく、彼が信じる「森におられる偉大な存在に見てもらうため」であることが明らかになる。

とはいえ、そんな存在は二人には見えない(もちろん視聴者にも見えない)し、いったいなんのこっちゃとなる。直接手を下してくるのは、この段階ではあくまでもザック本人だ。

中盤から後半にかけて、ザックに追われるうちに合流に成功したオリヴィア博士を加えて研究を進めることに。いや逃げようよ。

その研究の中で、木々に向かって閃光とナゾの音が発せられた瞬間に、二人は幻覚の世界にとらわれることになる。えっなにそれ怖い。

つまり、本当に恐れるべき存在は木、いや、森…だったの…?と、視聴者は困惑するだろう。安心してほしい。その困惑は、エンディングを見てもなお解決しない。

 

光・音・映像によるサイケデリック体験がむしろメインか

 

「イン・ジ・アース」の世界を理解するために視点を変えて、ちと昔の話をしよう。

具体的に言うとベトナム戦争時代ぐらい。懐かしいね。

あのころはアメリカで反戦運動がめちゃくちゃ流行ったのだけれど、その中でいわゆる自然の中に帰ろうという運動(自然回帰主義)が起こったり、動物愛護を訴えたり、自然食にハマる人々が爆発的に増えたりした。

当時の規則的で抑圧的な社会に対しての反発という意味で、いわゆる幻覚剤みたいなものと大音量のトランスミュージックをかけてトリップするという、いわゆるヒッピームーブメントのような、カウンターカルチャーが生まれたりもした。

この「イン・ジ・アース」で描かれている光と映像・音、そして体験というのは、まさしくこうした人々が目指したものなのだろう。

ここまでおどろおどろしくはないんだけれど、いわゆる「自然」の中に精神ごとダイブして精神世界を垣間見るっていうのは、実は「交響詩篇エウレカセブン」が類似の描写をしている。

 

 

交響詩篇エウレカセブンは、単なるロボットアニメとして語るにはもったいない作品だ。

 

あとは、制作側にそういう意図があったかどうかはわからないけど、基本的に「ナマの自然」ってけっこう厳しくてグロテスクなのよね。愛と平和と音楽みたいな「平和的な自然主義」って、実はすぐ近くに現代の社会があってこそ成り立つものだから。

 

幻覚剤も音楽をかける機材も現代科学で作られてるでしょっていう。

 

だから、自然崇拝とか自然回帰主義みたいなものと現代科学や現代生活って、要するに「カウンター」であって、本来は「完全否定」することが趣旨ではないんだろうなというのがやまねこの感想。

 

この映画には、ヒューマンドラマのようなメッセージとかストーリーというよりも、圧倒的な「自然」の中に置かれた人間が、あるきっかけをもとにその自然にその身体・精神ごとダイブしたときに、精神面ではこういう情景があるのではないか、というような観念的なものを感じた。

 

だからこれはホラー映画と位置づけるよりも…うーん、書店のカテゴライズとかで言うなら「宗教・思想」あたりに分類されそうな感じかなぁと。

 

ちなみに、この映画設定にある「新型感染症」についてだけど、おそらく視聴者が見立てているように新型コロナウイルスの感染拡大中に作られた映画。2020年8月だからね。イギリスではロックダウン期間だったようだ。

 

批評家はこの点を指して、「新型感染症によるパンデミックへの恐怖を洞察したものでもある」という批評を付けられてる。ホントにぃ…?

 

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面白い映画なのか?見るべきか?

 

なんとも歯切れの悪いレビューになってしまったわけだけど、結局この映画面白いの?見た方がいいの?という疑問が湧くのは当然だ。しかしその点は非常に難しい問題だ。

 

「よくわからないもの」を「よくわからないなりに」楽しめる人ならぜひおすすめしたい。他の映画にはない体験が待っていることは間違いないから。

 

あるいは、自分なりの解釈を見つけたり、観念的な描写をうまく噛み砕いて読み取ろうと努力できる人にとっても味わい深いと思う。

 

だけど、「映画.com」とかのレビューサイトでは星5段階評価で怒りの1.1がついているぐらい評判が悪い。Filmarksでも2だ。(記事作成時点)

 

だから万人にはおすすめできない。でも、やまねこ個人としては、ここまで散々な言いようをしたわりに、けっこう好きな映画だった。