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【映画】「黒い家」 狂気というよりは究極の自分至上主義、それがサイコパス。

※当然のことながらネタバレを含むので、未視聴の場合には閲覧に注意されたい。
twitterのフォロワーさんが紹介しているのを見て視聴してみた。
なぜ画像が「ボウリング」なのかは、視聴すればわかる。
 
 
大手生命保険会社「昭和生命」に勤務する青年、「若槻慎二・内野聖陽演」が主人公。
真面目だけど気弱で、おとなしい話し方が印象的。
ある日、若槻は女性(菰田幸子・大竹しのぶ演)から匿名で、「自サツでも保険はおりるのか」との問合せを受ける。
持ち前の気弱さを発揮しつつも、免責について説明する若槻だったが、そんな折、契約者である菰田重徳(西村雅彦演)からの呼び出しに応じ、菰田家を訪れたところ、幸子の連れ子が首を吊って死亡している場面に遭遇してしまう。
いや、「させられてしまう」というべきか。
 
黒い家

黒い家

  • 内野聖陽
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若槻はじめ「昭和生命」の面々が検証したところ、菰田重徳がかつて、障害給付金を詐取するために自分で自分の指を切断する「指狩り族」であったことが明らかになる。
若槻は、重徳が今度は再婚相手である幸子に危険が及ぶのではと考え、善意から幸子に匿名の警告を発するのだが…というストーリー。
 

 

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「怪しいけどまさかな…」が現実になる

 
ストーリーの中核となってしまうので伏せるが、「誰が真の首謀者であり、実行犯なのか」という真相に迫る描写が丁寧。
心理学を学んでいる主人公の恋人「黒澤めぐみ(田中美里演)」や、心理学助教授である「金石克己(桂憲一演)」などが、菰田夫妻のプロファイリングを行い、「情勢欠如」「サイコパス」といった事件の真相に迫っていく。
 
幼少期のエピソードや夢の作文、周囲からの評価などから、徐々に「不穏」が形をつくっていき、「いや、まさかね…」という懸念が現実になっていく様子はゾゾゾ…となる。
 
西村雅彦・大竹しのぶともに、「尋常でない人物」の演技が上手すぎて、思わず引き込まれてしまう。
 

調査パートから後半への怒涛の展開

 
菰田夫妻について、若槻らが調査を行うシーンは、やや地味にも見えるが、そのパートにたどり着くころには、すっかりこの作品の雰囲気に飲まれているだろうから退屈はしない。
 
心理学の専門家でもなく、取り立てて強い才覚や個性を持つわけでもない若槻の視点は、「一般人」である視聴者とよくリンクしていて、感情移入しやすい。また、若槻が感じる不安や焦燥感がダイレクトに見ている側に伝わる。このあたりは内野聖陽氏の演技の賜物でもあるのだけれど。
 
そして後半の怒涛の展開。地道な中盤パートを乗り越えてから一気に急転直下となるので、メリハリがあって見応えもある。このあたり、中盤の地道で静かな調査パートがなかったら、ただのスプラッタ・パニック映画になってしまうから、これはシナリオが高品質ということだと思う。素晴らしい。文句のつけようもない。
 
これまで頼りにしていた人物や身近な人物が次々と手にかけられていくこと、そして、自分の目に見えない範囲から自分に迫りくるサイコパスの描写がものすごく恐怖感を煽ってくれる。家で一人で見る人は注意してほしい。かなり本格的に怖い。
 
「サイコパス」という言葉は近年ではわりとメジャーで、アニメとかで描かれるときは残忍な性格、狂った哄笑なんかが特徴的だけど、「黒い家」で演じられたシーンを見ると、「いや、断然こっちの方が怖いわ…」となる。アニメっぽい展開なのにアニメ声優よりも緊迫感を出せる演技、すごい。
 
それと、「サイコパス」という言葉の指す意味として、決して「狂人」なわけではないということがよく分かる。確かに学力が高いわけではないのだろうけれど、この劇中に描かれるサイコパスもまた、知能には問題がない、それどころか、非常に狡猾で賢い。ただ、「共感すること」「人を思いやること」ができず、「人の善意や好意をあっさりと無視できること」というような、「究極の自己中心な性格」こそがサイコパスの根っこなんだなと感じさせられる。
 
シナリオの緊迫感、納得感、役者の演技、結末、どれをとっても「サスペンスホラーとして完璧」だった。つまり「サイコホラー」とは違う。
 
言葉は通じるのに話が通じない。このちぐはぐさが絶妙に怖い。
 

「古き良き昭和の日本」が描かれるのもいい

 
これはおまけ要素だけど、劇中で描かれる「古き良き昭和の日本」が描かれているのもよかった。町並み、人の服装や化粧、会社の様子など、あー、こんなんだったかも…となる。「踊る大捜査線」の初期ってこんな感じだったよね、みたいな。どこか懐かしくなるような舞台でそれも良かった。
 
結論、見るべし。